Section 9 | ||
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述語は節の中でもっとも重要な統語上の単位であり,他のほとんどすべての構成素はこれに向けて機能を果たしている。日本語の述語は,ボイス,アスペクト,極性,モダリティ,および証拠性を規定する要素によって拡張されることができる。述語の基本的要素について以下に述べる。
この節では動詞のアノテーションについて論じる。BCCWJ および CSJ で語彙的複合動詞として扱われている表現(例えば「かきわける」「そぎとる」「とりいれる」「はりつける」等)は本アノテーションでは単一のセグメントとして扱われる。 その一方,BCCWJ および CSJ で長単位としてチャンク化されている様々なタイプの補助動詞はけやきツリーバンクでは構成素に分割される。伝統的な定義では補助動詞とは,ある文脈では主要な語彙的動詞として現れるが,二次的な動詞としての位置に現れて,ダイクシス,アスペクト,極性等の文法カテゴリーの値を表すこともある(詳しくは 9.1.1 節を参照)。まず単純な例を示す。
主語とともに現れる場合,VB を中心として形成された述語は節を投射する:
(103)
ほかにも立候補の動きがある。
( (IP-MAT (PP (NP (N ほか))
(P に)
(P も))
(PP (NP (PP (NP (N 立候補))
(P の))
(N 動き))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(VB ある)
(PU 。))
(ID 100_newswire_KAHOKU_00028_K201401010A0F30XX00001))
(104)
芳一は大きな門口に達したのだと覚った――
( (IP-MAT (PP (NP (NPR 芳一))
(P は))
(NP-SBJ *)
(CP-THT (IP-SUB (NP-SBJ *pro*)
(PP (NP (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(ADJN 大きな)
(AX *))
(N 門口))
(P に))
(VB 達し)
(AXD た)
(P の)
(AX だ))
(P と))
(VB 覚っ)
(AXD た)
(PU ――))
(ID 59_aozora_Togawa-1937))
(105)
午まになったらまた来るがら。」
( (CP-FINAL (IP-SUB (NP-SBJ *speaker*)
(PP (IP-ADV (PP (NP (N 午ま))
(P に))
(VB なっ))
(P たら))
(CND *)
(ADVP (ADV また))
(VB 来る))
(P がら)
(PU 。)
(-RRB- 」))
(ID 163_aozora_Miyazawa-1934_b))
(106)
家事一切に関わらず、のんびりと心のぜいたくをする。
( (IP-MAT (NP-SBJ *speaker*)
(IP-ADV (PP (NP (N 家事)
(Q 一切))
(P に))
(VB 関わら)
(NEG ず))
(CONJ *)
(PU 、)
(PP (ADVP (ADV のんびり))
(P と))
(PP (NP (PP (NP (N 心))
(P の))
(N ぜいたく))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB する)
(PU 。))
(ID 15_newswire_KAHOKU_10414_K201401010A0LB0XX00006))
(107)
最近の親は、子供たちに自由にいろいろな所に行かせる。
( (IP-MAT (PP (NP (PP (NP (N 最近))
(P の))
(N 親))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PU 、)
(PP (NP (N 子供たち))
(P に))
(NP-OB1 *に*)
(IP-SMC (ADVP (ADJN 自由)
(AX に))
(PP (NP (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(ADJN いろいろ)
(AX な))
(N 所))
(P に))
(VB 行か))
(VB せる)
(PU 。))
(ID 673_textbook_purple_intermediate))
(108)
見知らぬ人は言葉をやわらげて言い出した、
( (IP-MAT (PP (NP (IP-REL (NP-OB1 *T*)
(NP-SBJ *pro*)
(VB 見知ら)
(NEG ぬ))
(N 人))
(P は))
(NP-SBJ *)
(IP-ADV (PP (NP (N 言葉))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB やわらげ)
(P て))
(CONJ *)
(VB 言い)
(VB2 出し)
(AXD た)
(PU 、))
(ID 46_aozora_Togawa-1937))
(109)
ただ餅を搗く音だけする。
( (IP-MAT (ADVP (ADV ただ))
(PP (NP (IP-EMB (NP-SBJ *pro*)
(PP (NP (N 餅))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB 搗く))
(N 音))
(P だけ))
(NP-SBJ *)
(VB する)
(PU 。))
(ID 504_aozora_Natsume-1908))
一般に動詞とされる語は,本アノテーションでは次の3つに分類される。
5 節で述べたように,VB,VB0,および VB2 は IP に直接支配され,比較的フラットな構造を形作る。本動詞(VB)は動詞述語の中の最初の要素である。複雑な動詞述部の中では,動詞は典型的には語幹の形を取る。もっとも普通に見られる動詞としては以下のものがある(終止形で示す): する,ある,なる,見る,行く,思う,言う。しかしながら,本動詞は他の活用形語幹で現れ,補助動詞(VB2), あるいは受動(PASS), 否定(NEG)や過去テンス(AXD)などを表す他の動詞的形態素を後続させることも多い。VB の特別なケースとして,使役態助動詞および間接受動態助動詞は小節(small clause)を埋め込み,定義により VB とされる(下記の議論を参照のこと)。
軽動詞(VB0)は「する,いたす,なさる,申し上げる,下さる,できる」のような動詞や接尾辞「がる」の語幹または活用形のことである。VB0 はまた,「お願い,移動,チェック,むかむか」のような,「動名詞」と呼ばれることもある VB に後続して現れることがある。VB0 もまた,VB2, PASS, NEG 等などの後続要素をともなうことができる。
(110)
「やあ耕助君、失敬したねえ。」
( (CP-FINAL (-LRB- 「)
(IP-SUB (INTJ やあ)
(NP-SBJ (NPR 耕助君))
(PU 、)
(VB 失敬)
(VB0 し)
(AXD た))
(P ねえ)
(PU 。)
(-RRB- 」))
(ID 60_aozora_Miyazawa-1934_d))
補助動詞(VB2)は,活用可能な動詞に後続して現れる動詞のことである。VB2 が VB の直後に続いて現れる場合,アスペクトを表すもの(始める,出す,かける,続ける,終える,終る,止む),可能性を表すもの(兼る,得る,抜く,損う),程度を表すもの(過ぎる,尽す,果てる,切る,足りる),方向を表すもの(込む,回る,去る),および他の様々な意味を表すもの(間違える,直す,合う,立てる,付ける)がある。このグループに属する補助動詞は2つ連続して現れることがある。
(111)
震災は人々の記憶から薄れ始めているのか。
( (CP-QUE (IP-SUB (PP (NP (N 震災))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (NP (PP (NP (N 人々))
(P の))
(N 記憶))
(P から))
(VB 薄れ)
(VB2 始め)
(P て)
(VB2 いる)
(P の))
(P か)
(PU 。))
(ID 6_newswire_KAHOKU_00039_K201403130A0T10XX00001))
同一の IP の下で(P て) に後続する「いる,ある,おく,ほう,みる,みせる,あげる,くれる,やる,くださる,いく,くる,いらっしゃる,まいる,お出で,ご覧,頂戴」等もアスペクトあるいは他の意味を表す。これらも VB2 と見なされる。このグループに属する補助動詞は2つ連続して現れることがある。
(112)
今、調べています。
( (IP-MAT (NP-SBJ;{MAN_478} *pro*)
(NP-OB1;{MATTER_478} *pro*)
(NP-TMP (N 今))
(PU 、)
(VB 調べ)
(P て)
(VB2 い)
(AX ます)
(PU 。))
(ID 478_textbook_kisonihongo))
動詞「する」(および類似の動詞「いたす」「なさる」等も)および「なる」の前にイ形容詞連用形が出現する場合,しばしば小節が投射され,「する」「なる」は述語部分の中の最初の動詞,すなわち VB となる。この場合,小節が満たされなければならない条件が3つある:(i) 小節の主要部が出来事ではなく属性を表すこと,(ii) 「する」の NP-OB1 または「なる」の NP-SBJ が小節の主要部の主語として解釈されること,(iii) 小節がとりたて助詞を伴う場合を除き,「する」の NP-OB1 または「なる」の NP-SBJ が小節に先行すること。これらの条件が満たされる場合,小節としての解析が採用される。例えば,下の例文の最初の節において,「細帯を長くして」が表す行為が成り立つことは,「細帯」について「長い」という属性が当てはまることを含意している。したがって,ここでイ形容詞「長い」は小節 IP-SMC を投射する。
(113)
そうして細帯を長くして、子供を縛っておいて、その片端を拝殿の欄干に括りつける。
( (IP-MAT (NP-SBJ *pro*)
(CONJ そうして)
(IP-ADV (PP (NP (N 細帯))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(IP-SMC (ADJI 長く))
(VB し)
(P て))
(CONJ *)
(PU 、)
(IP-ADV (PP (NP (N 子供))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB 縛っ)
(P て)
(VB2 おい)
(P て))
(CONJ *)
(PU 、)
(PP (NP (D その)
(N 片端))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(PP (NP (PP (NP (N 拝殿))
(P の))
(N 欄干))
(P に))
(VB 括り)
(VB2 つける)
(PU 。))
(ID 565_aozora_Natsume-1908))
下の例において,「路はだんだん暗くなる」が表す出来事が成り立つことは,「路」について属性「暗い」が当てはまることを含意している。そのため,「暗く」は IP-SMC を投射する。
(114)
路はだんだん暗くなる。
( (IP-MAT (PP (NP (N 路))
(P は))
(NP-SBJ *)
(ADVP (ADV だんだん))
(IP-SMC (ADJI 暗く))
(VB なる)
(PU 。))
(ID 209_aozora_Natsume-1908))
このような,イ形容詞の連用形の分析は,以下の例におけるナ形容詞,あるいは名詞の伴う「に」を助動詞(AX)の連用形と考えることに繋る。
(115)
仕事はあっても利益にならず、豊作貧乏の状況だ。
( (IP-MAT (NP-SBJ *pro*)
(IP-ADV (PP (NP (N 仕事))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (IP-ADV (VB あっ)
(P て))
(P も))
(CONJ *)
(IP-SMC (NP-PRD (N 利益))
(AX に))
(VB なら)
(NEG ず))
(SCON *)
(PU 、)
(NP-PRD (PP (NP (N 豊作貧乏))
(P の))
(N 状況))
(AX だ)
(PU 。))
(ID 53_newswire_KAHOKU_00113_K201401010A0F90XX00001))
時には,ゼロの第二主語名詞句(NP-SBJ2)が小節にコントロールを及ぼすこともある。
(116)
ソニーが新しい社長になった
( (IP-MAT (PP (NP (NPR ソニー))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(NP-SBJ2 *pro*)
(IP-SMC (NP-PRD (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(ADJI 新しい))
(N 社長))
(AX に))
(VB なっ)
(AXD た))
(ID 48_misc_EXAMPLE))
この小節としての分析は以下に示すような,主語と述語という関係が成り立たず,属性の解釈ができないような例と対比される。
(117)
今後の医療運営は被災地の人口流出にも向き合うことになる。
( (IP-MAT (PP (NP (PP (NP (N 今後))
(P の))
(N 医療運営))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (NP (IP-EMB (PP (NP (PP (NP (N 被災地))
(P の))
(N 人口流出))
(P に)
(P も))
(VB 向き合う))
(N こと))
(P に))
(NP-OB1 *に*)
(VB なる)
(PU 。))
(ID 25_newswire_KAHOKU_00093_K201403050A0T10XX00201))
(118)
「昨年の今ごろ」のニュースや話題が閲覧できるようになる。
( (IP-MAT (NP-SBJ *pro*)
(PP (NP (IP-EMB (PP (NP (PP (NP (-LRB- 「)
(PP (NP (N 昨年))
(P の))
(N 今ごろ)
(-RRB- 」))
(P の))
(NML (CONJP (NP (N ニュース))
(P や))
(NP (N 話題))))
(P が))
(NP-OB1 *が*)
(VB 閲覧)
(VB0 できる))
(N よう))
(P に))
(VB なる)
(PU 。))
(ID 30_newswire_KAHOKU_00097_K201402230A0T20XX00001))
尊敬語および謙譲語の動詞述部において「する」(および類似の語形)と「なる」は VB2 としての役割を果たす。動詞の敬語形は接頭辞「お」または「ご(御)」をともない,動名詞となる。この場合,動詞述部の構成としては,まず最初に尊敬語形または謙譲語形の動詞が VB とラベル付けされる。尊敬語形の場合,その直後に (P に) が,またその後に (VB2 なる) が続く。 謙譲語形動詞はそのすぐ後に (VB2 する) または類似の補助動詞「致す」が続く。
(119)
鈴木先生は本をお書きになった。
( (IP-MAT (PP (NP;{SUZUKI_1295} (NPR 鈴木先生))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (NP (N 本))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB お書き)
(P に)
(VB2 なっ)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 1295_textbook_kisonihongo))
(120)
花子は鈴木先生に結果をご報告した。
( (IP-MAT (PP (NP;{HANAKO_1311} (NPR 花子))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (NP;{SUZUKI_1311} (NPR 鈴木先生))
(P に))
(NP-OB2 *に*)
(PP (NP (N 結果))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB ご報告)
(VB0 し)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 1311_textbook_kisonihongo))
項の数を増やす構文の中には,小節としての統語解析を必要とするものがある。例えば,(VB ...) (P て) の直後に現れる授受動詞「もらう」や「いただく」がその例である。これらの動詞は「に」が表示する NP-OB1 をサブカテゴライズし,それが小節 (IP-SMC) の主語をコントロールする。IP-SMC は (VB ...) (P て) およびそのすべての項および修飾句を包含する。こうして,「もらう」はそのような文脈における主節述部の最初の VB となる。以下の例を参照のこと。
(121)
私は鈴木さんに答えを教えてもらった。
( (IP-MAT (PP (NP;{SPEAKER_299} (PRO 私))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (NP;{SUZUKI_299} (NPR 鈴木さん))
(P に))
(NP-OB1 *に*)
(IP-SMC (PP (NP (N 答え))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB 教え)
(P て))
(VB もらっ)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 299_textbook_kisonihongo))
間接受動構文もまた項の数を増やす構文であり,行為により影響を受ける者を表す項は,述部の埋め込みを伴う構文に対して NP-SBJ として付け加えられる。埋め込められた述部の主語は,典型的には「に」により表示され,上記の主節主語となる項の姉妹の位置に移動される(例: 私は嫌いな人に不本意に自分の書いた論文を褒められてしまった)。この論理的主語は,この位置から埋め込まれた小節をコントロールする。また,小節は,主たる動詞の他の項や修飾句をともなうことが多い。このような二重の節への分析は項の数が増加する事実の他に,他の統語論的現象をも説明する。しかしこの分析では,拘束形態素 (VB られ) が IP-SMC の直後に出現し,主節 IP の主動詞となることが必要である(30.10 節を参照)。直接受動,可能,自発,および尊敬構文においても「(ら)れ」が使用されるが,これらにおいては節の埋め込みを伴う構文として分析されないことに注意が必要である。直接受動文の「(ら)れ」は PASS とラベル付けされ,また可能,自発,および尊敬構文における」「(ら)れ」は VB2 とされる。
(122)
私は弟にケーキを食べられた。
( (IP-MAT (PP (NP;{SPEAKER_17} (PRO 私))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (NP (N 弟))
(P に))
(NP-OB1 *に*)
(IP-SMC (PP (NP (N ケーキ))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB 食べ))
(VB られ)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 17_misc_EXAMPLE))
使役構文もまた項の増加を伴う構文である。この構文に置いても主たる動詞の論理的主語は「に」によって表示されることが多く(場合によっては「を」が用いられることもある),付け加えられた主節主語の姉妹の位置に移動される。この二重の節の分析により,項の数の増加および他のいくつかの統語論的現象を説明することができる。しかしながら,この分析によると,拘束形態素 (VB させ) が IP-SMC の直後に続き,主節 IP の述部の最初の動詞的構成素,すなわち VB とならねばならないことになる。30.8 節を参照のこと。
(123)
私は弟にケーキを食べさせた。
( (IP-MAT (PP (NP;{SPEAKER_15} (PRO 私))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (NP (N 弟))
(P に))
(NP-OB1 *に*)
(IP-SMC (PP (NP (N ケーキ))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB 食べ))
(VB させ)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 15_misc_EXAMPLE))
「移動の目的を表す構文」は全体で1つのまとまりを構成していると思われるかもしれないが,実際には2つの述語が分割して分析される。注意が必要である。この構文は,移動動詞を修飾する構成素の終結部において動詞連用形に助詞「に」が後接しているものとして分析される。連用形動詞は,独自の項を取ることができ,これは後続する動詞が選択する項とは異なるため,節を投射し,それが助詞「に」によって示されているものと分析される。移動の目的を表す節を含む PP-PRP(目的助詞節)は,移動動詞を修飾するにすぎない。そのため文中での出現の語順について制限が緩い。移動の目的を表す構造については 30.13 節を参照。
(124)
しばらくして、若者2人が助けに来ました。
( (IP-MAT (ADVP (ADV しばらくして))
(PU 、)
(PP (NP (N 若者)
(NUMCLP (NUM 2人)))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(PP-PRP (IP-ADV (NP-OB1 *speaker*)
(VB 助け))
(P に))
(VB 来)
(AX まし)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 105_newswire_KAHOKU_00034_K201404110A0T30XX00001))
最後に,接尾辞「がる」は動詞と同様に活用するが,これは拘束形態素なので,AX のカテゴリーを与えられる。
「大きい」「うつくしい」などのイ形容詞(ADJI)は,例えば命令形をもたないなどの独特な活用パラダイムをもっている。ADJI は修飾句や述語拡張形との共起関係に関して制限を有し,文脈によっては焦点について助詞との間に特別な相互作用を見せる。しかし投射に関しては,他の述語と同様の振舞いをする。名詞句の範囲外で主語とともに出現する場合,イ形容詞は主節,CP の下の IP-SUB,IP-ADV,または IP-SMC を投射し,文法機能に関しても文法表示に関しても基本的に動詞や他の述語と同一の制約をもつ。
(125)
新市を軌道に乗せる意欲は強い。
( (IP-MAT (PP (NP (IP-EMB (NP-SBJ *pro*)
(PP (NP (N 新市))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(PP (NP (N 軌道))
(P に))
(VB 乗せる))
(N 意欲))
(P は))
(NP-SBJ *)
(ADJI 強い)
(PU 。))
(ID 160_newswire_KAHOKU_00028_K201401010A0F30XX00001))
(126)
そんなこともないですか?
( (CP-QUE (IP-SUB (PP (NP (D そんな)
(N こと))
(P も))
(NP-SBJ *)
(ADJI ない)
(AX です))
(P か)
(PU ?))
(ID 21_newswire_KAHOKU_10414_K201401010A0LB0XX00006))
(127)
人間で言えば80歳近いのに、まだやんちゃですよ」
( (CP-FINAL (IP-SUB (NP-SBJ *pro*)
(PP (IP-ADV (IP-ADV (NP-SBJ *speaker*)
(NP-OB1 *pro*)
(PP (NP (N 人間))
(P で))
(VB 言え)
(P ば))
(CND *)
(PP (NP (NUMCLP (NUM 80)
(CL 歳)))
(P *に*))
(ADJI 近い))
(P のに))
(SCON *)
(PU 、)
(ADVP (ADV まだ))
(ADJN やんちゃ)
(AX です))
(P よ)
(-RRB- 」))
(ID 8_newswire_KAHOKU_13153_K201401010A0A106B00004))
(128)
家族愛の深さは尊いが、互いを心配するあまり、津波避難が遅れる場合もある。
( (IP-MAT (PP (IP-ADV (PP (NP (PP (NP (N 家族愛))
(P の))
(N 深さ))
(P は))
(NP-SBJ *)
(ADJI 尊い))
(P が))
(CONJ *)
(PU 、)
(NP-ADV (IP-EMB (NP-SBJ *pro*)
(PP (NP (N 互い))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB 心配)
(VB0 する))
(N あまり))
(PU 、)
(PP (NP (IP-EMB (PP (NP (N 津波避難))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(VB 遅れる))
(N 場合))
(P も))
(NP-SBJ *)
(VB ある)
(PU 。))
(ID 45_newswire_KAHOKU_00063_K201401110A0T10XX00001))
(129)
このいちごは甘くておいしいです。
( (IP-MAT (PP (NP (D;{STRAWBERRY_27} この)
(N いちご))
(P は))
(NP-SBJ *)
(IP-ADV (ADJI 甘く)
(P て))
(CONJ *)
(ADJI おいしい)
(AX です)
(PU 。))
(ID 27_misc_BUFFALO))
(130)
阪神大震災でも心の問題は3年目に多くなった。
( (IP-MAT (PP (NP (NPR 阪神大震災))
(P で)
(P も))
(PP (NP (PP (NP (N 心))
(P の))
(N 問題))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (NP (NUMCLP (NUM 3)
(CL 年目)))
(P に))
(IP-SMC (ADJI 多く))
(VB なっ)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 25_newswire_KAHOKU_00616_K201401010A0A106B00001))
イ形容詞が主語(空要素も含む)を伴って名詞を修飾する場合,関係節(IP-REL)または,空所なし名詞修飾節(IP-EMB)を投射する。
(131)
――ある早朝のこと――はげしい雨がガラス窓を打っていた。
( (IP-MAT (NP-TMP (-LRB- ――)
(PP (NP (D ある)
(N 早朝))
(P の))
(N こと)
(-RRB- ――))
(PP (NP (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(ADJI はげしい))
(N 雨))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(PP (NP (N ガラス窓))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB 打っ)
(P て)
(VB2 い)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 108_aozora_Harada-1960_e))
(132)
おそらくすでに春が近いしるしだろう
( (IP-MAT (NP-SBJ *pro*)
(ADVP (ADV おそらく))
(NP-PRD (IP-EMB (ADVP (ADV すでに))
(PP (NP (N 春))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(ADJI 近い))
(N しるし))
(AX だろ)
(MD う))
(ID 109_aozora_Harada-1960_e))
2番目の項を必要とする特別な意味をもつ形容詞が多数存在する。このような,2つの項をもつイ形容詞のリスト(網羅的ではない)を,NP-OB1 を表示する典型的な助詞とともに以下に挙げておく。
「欲しい」のように両方の項の名詞句が「が」により表示されるものもあることに注意が必要である。
この場合は,「私」は NP-SBJ であり,「チョコレート」は NP-OB1 となる。
一方,「象が鼻が長い」のような文では,「象」は SBJ ,「鼻」は SBJ2 の二重主語文である。なぜなら「象が長い」は「象が鼻が長い」という文の意味を念頭に置かなければ「長い」の主語が「象」とは解釈できないからである。
助動詞的形容詞は IP-SMC の埋め込みを伴う。
(133)
あさってまでに完成してほしい。
( (IP-MAT (NP-SBJ *speaker*)
(NP-OB1;{PROJECT_264} *pro*)
(IP-SMC (PP (NP (N あさって))
(P まで)
(P に))
(VB 完成)
(VB0 し)
(P て))
(ADJI ほしい)
(PU 。))
(ID 264_textbook_kisonihongo))
助動詞的な働きをするイ形容詞「ほしい」は IP-SMC を補部としてとり,この補部は常に主語ではない要素からコントロールを受ける。この IP-SMC は (VB ...) (P て) あるいは (VB0 ...) (P て) と分析される(例 (133) を参照)。
願望を表す接尾辞「たい」もまたイ形容詞と活用形は同じであるが,拘束形態素であるため,AX(助動詞)のカテゴリーを与えられる。
「やすい」「にくい」「がたい」は動詞語幹に後接しイ形容詞と同じ活用を行うが,これらもまた AX(助動詞)のカテゴリーを与えられる。
動詞に由来する要素の後に「づらい」が後接してイ形容詞と同じような働きをする語(例えば,しづらい,分かりづらい,見えづらい,等)がある。これらは ADJI のカテゴリーをもつ単一の語として扱われる。
コピュラ表現の多くは [ナ形容詞/名詞句+コピュラ]の組み合わせで作られる。ただし,いわゆる分裂文においてコピュラは助詞句(PP)とも結び付く(9.4.8 節を参照)。コピュラの機能は,主語名詞句を他の名詞と関連付けることであり,それには次の3つの基本的な意味的タイプがある:(i) 同一性(idenitity)「遊び人の金さんは奉行の遠山景元だ」,(ii) 属性叙述(property ascription)「油揚げは狐色だ」,(iii) 指定(specification)。
この節ではコピュラの形式と分布について記述する。「だ」およびその活用形はコピュラの役割を果たし,AX とラベル付けされる。複合的形式の「である」もまたコピュラと同様の機能を果たす。この形式は以下のように分析される。
(... (AX で)
(VB2 ある))
コピュラの否定形もまた,多くはとりたて助詞が構成要素の間に挿入される複合的形式によって表される。
(... (AX で)
(P は)
(VB2 ない))
「だ」およびその活用形は述語名詞句(NP-PRD)および ナ形容詞(ADJN)に付加される他に,節を構成する (P の) に対しても付加される。
肯定形で非過去,非意志形の単純なコピュラ「だ」は,「らしい,みたい,かもしれない,にちがいありません,そう,べき」等のモーダル助動詞の前では省略される。しかし,「である」は出現することができる。コピュラ語幹を伴う意志/推量形(未然形)の表現「だろ」「でしょ」「であろ」の直後には (MD う) が後続する。
(134)
怖いのは目立たない問題だろう。
( (IP-MAT (PP (NP (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(ADJI 怖い))
(N の))
(P は))
(NP-SBJ *)
(NP-PRD (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(VB 目立た)
(NEG ない))
(N 問題))
(AX だろ)
(MD う)
(PU 。))
(ID 31_newswire_KAHOKU_00616_K201401010A0A106B00001))
コピュラの (AX だろ) (MD う) は (MD だろう) と同形であることに注意する必要がある。「だろ」「でしょ」「であろ」が後続の (MD だろう) と共起することはなく,(MD だろう) がそれらに取って代わることもない。(MD だろう) はコピュラと無関係のどのような述語にも後接することができ,また述語に (AXD た) が後続する (コピュラの過去形を含む) あらゆる場合にも共起が可能である。
(135)
昨日は東北でも暖かかっただろう。
( (IP-MAT (PP (NP (N 昨日))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (NP (NPR 東北))
(P で)
(P も))
(ADJI 暖かかっ)
(AXD た)
(MD だろう)
(PU 。))
(ID 451_textbook_purple_intermediate))
肯定形の非過去,非意志形の単純なコピュラ「だ」は条件を表す (P なら) の直前では省略される(本アノテーションでは,このような「なら」と,とりたて助詞の「なら」を異なるものとして扱っている)。しかし,(P なら) と同形の,古い語形としてのコピュラである「なら」も存在することに注意する必要がある。
「か」「さ」などいくつかの終助詞の直前で,肯定形・非過去・非意志形の単純なコピュラ「だ」は省略される。埋め込まれた間接疑問節においても「だ」は省略されるが,「だか」という連続が出現することもある。
(136)
「私は涙というものがどんなものかを知らなかった。
( (IP-MAT (-LRB- 「)
(PP (NP (PRO 私))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (CP-QUE (IP-SUB (PP (NP (PP (NP (N 涙))
(P という))
(N もの))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(NP-PRD (WD どんな)
(N もの)))
(P か))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB 知ら)
(NEG なかっ)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 78_aozora_Yuki-1-2000))
(137)
なぜだかは分かりません。
( (IP-MAT (NP-SBJ *speaker*)
(PP (CP-QUE (IP-SUB (NP-SBJ *pro*)
(ADVP (WADV なぜ))
(AX だ))
(P か))
(P は))
(VB 分かり)
(AX ませ)
(NEG ん)
(PU 。))
(ID 303_aozora_Hayashida-2015))
「ね」「よ」などいくつかの終助詞の前では「だ」は任意的である。これらの「だ」が省略されるすべての場合のアノテーションにおいて,コピュラのゼロ形式を補充する必要はない。
他方,終助詞の中にも「ぞ,ぜ,わ,なぁ」のように,直前の「だ」を省略できないものもある。また,伝聞を表すモーダル助動詞「そう」の後では「だ」は省略できない。さらに,従属節を導く助詞「けれど,とも,から,し,が」等の直前でも「は」は省略することができない。
主節述語の拡張形である (P の) (AX だ) もまた,終助詞の前での省略に関してコピュラ述語と同じ制約を受ける。丁寧形などの複合的な語形は出現しうるが,単純な語形「だ」は通常省略される。以下の語形を比較すること。
(138)
太郎はまだ子供なのだ。
( (IP-MAT (PP (NP;{TARO_39} (NPR 太郎))
(P は))
(NP-SBJ *)
(ADVP (ADV まだ))
(NP-PRD (N 子供))
(AX な)
(P の)
(AX だ)
(PU 。))
(ID 39_textbook_kisonihongo))
本アノテーションでて,この構文における「の」を,関係節によって修飾された形式名詞としては扱わない。 それには様々な理由がある。状態述語の主語が「が」により表示される場合,「のだ」構文においては通常の言い切りの文と同様,総記(焦点)としての解釈を受ける。それに対して,関係節の中では総記の読みは抑制される。また,形式名詞にコピュラが後続する様々な構文においてスコープの制約が見られるのに対し,「のだ」文には見られない。例えば,「火曜日ならここはベルギーな筈だ」と「火曜日ならここはベルギーなんだ」の違いを参照のこと。他方,名詞修飾語の中には,「のだ」構文の中には現れるのに対し,「のだ」を伴わない文では副詞句的形式に変換することが必要である。「あいつ,あんなにガメツイ人なんだ!」と「あいつ,あんな *(に) ガメツイ人だった!」を参照のこと。さらに,「の」のスコープが文全体に及ばない場合がある。
(139)
それはそうとしても、これがまだ彼の父親なのだろうか。
( (CP-QUE (IP-SUB (PP (IP-ADV (NP-SBJ *arb*)
(PP (NP (PRO それ))
(P は))
(NP-OB1 *)
(PP (ADVP (ADV そう))
(P と))
(VB し)
(P て))
(P も))
(SCON *)
(PU 、)
(PP (NP (PRO これ))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(ADVP (ADV まだ))
(NP-PRD (PP (NP (PRO 彼))
(P の))
(N 父親))
(AX な)
(P の)
(AX だろ)
(MD う))
(P か)
(PU 。))
(ID 189_aozora_Harada-1960_d))
以上のことから,少くともこの特定のケースについては,間違いを生じうることを承知の上で慎重なやり方を選んでいるのである。とは言え,モーダル的な意味をもつ様々な形式名詞についても,同様の取り扱いが有効かもしれない。
コピュラは様々な語形をもっている。連用形「で」は「ある,いる,ござる」を従えて複合的なコピュラを形作る他に,単独で従属節の終末部を構成するコピュラとして出現することができる。
(140)
<SL銀河>客車は4両編成で、定員180人を予定。
( (IP-MAT (PP (NP (PRN (-LRB- <)
(NP (NPR SL銀河))
(-RRB- >))
(N 客車))
(P は))
(NP-SBJ *)
(IP-ADV (NP-PRD (NUMCLP (NUM 4)
(CL 両))
(N 編成))
(AX で))
(CONJ *)
(PU 、)
(PP (NP (N 定員)
(NUMCLP (NUM 180)
(CL 人)))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB 予定)
(PU 。))
(ID 30_newswire_KAHOKU_01917_K201401010A0EA0XX00003))
(141)
仙台は静かでとてもきれいでした。
( (IP-MAT (PP (NP (NPR 仙台))
(P は))
(NP-SBJ *)
(IP-ADV (ADJN 静か)
(AX で))
(CONJ *)
(ADVP (ADV とても))
(ADJN きれい)
(AX でし)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 9_misc_EXAMPLE))
上記の例における (AX で) が「であって」と交替可能であることに注意されたい。
「に」と「と」はコピュラの連用形が期待されるとき現れる。「に」は特に,(142) に見るように,ADJN の後にしばしば現れる。しかし,小節(IP-SMC)では述語名詞句の後に現れることもある (143)。「と」も同じような状況で現れる (144)。このような「に」や「と」は (AX に) and (AX と) のように分析される(詳細については,34.1.1節--34.1.3節を参照)。
(142)
子供は一生懸命に手拭を見ていた。
( (IP-MAT (PP (NP (N 子供))
(P は))
(NP-SBJ *)
(ADVP (ADJN 一生懸命)
(AX に))
(PP (NP (N 手拭))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB 見)
(P て)
(VB2 い)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 261_aozora_Natsume-1908))
(143)
全学級の大騒ぎになった。
( (IP-MAT (NP-SBJ;{Akun_AGITATING} *pro*)
(IP-SMC (NP-PRD (PP (NP (QN 全学級))
(P の))
(N 大騒ぎ))
(AX に))
(VB なっ)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 60_aozora_Dazai-1-1940))
(144)
そんなことを夫にこぼしても、馬耳東風で平然としている。
( (IP-MAT (PP (IP-ADV (NP-SBJ *speaker*)
(PP (NP (D そんな)
(N こと))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(PP (NP (N 夫))
(P に))
(VB こぼし)
(P て))
(P も))
(CND *)
(PU 、)
(NP-SBJ *pro*)
(IP-ADV (NP-PRD (N 馬耳東風))
(AX で))
(CONJ *)
(ADJN 平然)
(AX と)
(VB2 し)
(P て)
(VB2 いる)
(PU 。))
(ID 18_newswire_KAHOKU_10414_K201401010A0LB0XX00006))
「私ともあろう者が...」に見られるような「と」を含む定型句が,限定詞「とある」として化石化していることがある(例:渋谷のとある喫茶店でインタビューに応じてくださった)。
「に」または「と」が「ある」と縮約した「なる」「たる」はコピュラの連体形として用いられる。
(145)
あれは無意味なる沈鬱である。
( (IP-MAT (PP (NP (PRO あれ))
(P は))
(NP-SBJ *)
(NP-PRD (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(ADJN 無意味)
(AX なる))
(N 沈鬱))
(AX で)
(VB2 ある)
(PU 。))
(ID 13_aozora_Terada-1929))
(146)
彼には確固たる考えがある。
( (IP-MAT (PP (NP (PRO 彼))
(P に)
(P は))
(NP-SBJ *に*)
(PP (NP (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(ADJN 確固)
(AX たる))
(N 考え))
(P が))
(NP-OB1 *が*)
(VB ある)
(PU 。))
(ID 54_misc_EXAMPLE))
「の」という形式に関しては,それがコピュラなのか助詞なのかを判断するのが難しいことがある。 以下では,アノテーションを行う際の判断に有用な区別を示すと共に曖昧な場合についても述べる。
連体修飾の「の」のうち,コピュラであると認められるべきものがある。 そのようなものに対しては,以下のように,「の」を (AX の) とラベル付けした上で, 修飾句全体を関係節とする。
(147)
「そこに小さなマッチ売りの少女がいる。
( (IP-MAT (-LRB- 「)
(PP (NP (PRO そこ))
(P に))
(PP (NP (PNL 小さな)
(IP-REL (NP-SBJ *T*)
(NP-PRD (N マッチ売り))
(AX の))
(N 少女))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(VB いる)
(PU 。))
(ID 225_aozora_Yuki-1-2000))
これとは別に,格助詞として考えるべき「の」も存在し, これは P としてラベル付けされる。 この「の」は,先行する名詞が後続する名詞の項であることを標示するためのものであると考えられる。
(148)
中世の都市の自治区には同業組合と商売の名前がありました
( (IP-MAT (PP (NP (PP (NP (PP (NP (N 中世))
(P の))
(N 都市))
(P の))
(N 自治区))
(P に)
(P は))
(PP (NP (PP (NP (CONJP (NP (N 同業組合))
(P と))
(NP (N 商売)))
(P の))
(N 名前))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(VB あり)
(AX まし)
(AXD た))
(ID 89_translated_TED_8-StefanaBroadbent_2009G))
Pの「の」を判定するテストとしては,以下のものがある:
このテストは,X1が項または付加詞でありうるかを判定するテストである。 格助詞が挿入できる場合,当該の名詞句は項または付加詞であると考えられる。 なお,このテストは,P とラベル付けされるべきものについての十分条件でしかなく,逆は成立せず,したがって このテストに通らなくても,Pとラベル付けされるべきものもあること(後述)に注意すること。
このテストに通るものとしては, 例えば, 「じゃがいもの皮むき」 「物理の本」 「太郎のかばん」 「元旦の夕食」 「学校の机」 「押入れの中のふとん」 「上北台までのモノレール」 「ドーナツとは別の食べ物」 がある。
このテストに通らないものは,通常は 「の」を AX とラベル付けされ,関係節を投射する。 該当する例としては, 「病気の太郎」 「これらの教科書」 「立川においでのお客様」 「学生の三人」 がある。
「三人の学生」のような数量表現は上記のテストに通らず,したがってコピュラとして分析すべきものである。しかし,これらを「一尺の布」のような属性を描写する表現と区別するために,数量表現の「の」は P とラベル付けすることにする。このとき「の」が投射する PP には,(PP;* (NP (NUMCLP (NUM 三) (CL 人))) (P の)) のように曖昧性解消情報を加えることにする。数量表現については 29.2 節を参照。
ただし,テストに通らない原因として, 「(この)NP2はX1である」がそもそも容認不可であるものは例外とする。 このようなX1としては, 「ため」(理由,原因) 「ため」(受益者) 「せい」(理由,原因) 「せい」(加害者) 「こと」 「よう」 がある。 これらはみな,形式名詞と呼ばれるものである。 以下,そのアノテーションの方法を述べる。
「X1のため」(理由、原因)は,「の」を AX とした上,修飾句全体を IP-EMB とする。 この用法においては,「の」を「である」または「をする」に置き換えて, 「X1{である/をする}ため」を, 命題内容を変化させずに得ることが可能である。 これが,受益用法からこの用法を区別するテストであり,逆も成立する。 以下に例を示す:
(149)
被災地ではまだ、保護者が大変な時期のため、子どもがうまく甘えられない面もある。
( (IP-MAT (PP (NP (N 被災地))
(P で)
(P は))
(NP-ADV (IP-EMB (ADVP (ADV まだ))
(PU 、)
(PP (NP (N 保護者))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(NP-PRD (IP-EMB (ADJN 大変)
(AX な))
(N 時期))
(AX の))
(N ため))
(PU 、)
(PP (NP (IP-EMB (PP (NP (N 子ども))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(ADVP (ADV うまく))
(VB 甘え)
(VB2 られ)
(NEG ない))
(N 面))
(P も))
(NP-SBJ *)
(VB ある)
(PU 。))
(ID 99_newswire_KAHOKU_00055_K201406190A0T10XX00201))
受益の「X1のため」(この場合,X1はNPに限定される)では,「の」をPとする。 以下に例を示す。
(150)
この「毒殺未遂事件」の正体は、反政宗派一掃のための自作自演説もある。
( (IP-MAT (PP (NP (PP (NP;{MASAMUNE_ASSASSINATE_THEORY} (D この)
(-LRB- 「)
(N 毒殺未遂事件)
(-RRB- 」))
(P の))
(N 正体))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PU 、)
(PP (NP (NML (PP (NP (PP (NP (N 反政宗派一掃))
(P の))
(N ため))
(P の))
(N 自作自演))
(N 説))
(P も))
(NP-OB1 *)
(VB ある)
(PU 。))
(ID 46_wikipedia_Datemasamune))
「X1のせい」については,用法の区別も含めて,「ため」と同様にする。 「X1のこと」については,「の」をPとする。
(151)
「政治家たちは子供たちのことにはまったく無関心です。
( (IP-MAT (-LRB- 「)
(PP (NP (N 政治家たち))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (NP (PP (NP (N 子供たち))
(P の))
(N こと))
(P に)
(P は))
(ADVP (ADV まったく))
(ADJN 無関心)
(AX です)
(PU 。))
(ID 251_wikipedia_Audrey_Hepburn))
ただし,「未提出者は放課後、居残りのこと」のように, 文末に「X1のこと」が現れる場合,「の」をPとした上で「こと」を MD とする。 「*太郎が該当者のこと(が重大だ)」という句のような用例が, 現代日本語において見つかることはないだろうと考えられるが, 出現した場合,IP-EMB 分析を取ることにする。
「X1のよう」は,「の」を AX とした上で修飾句全体を IP-EMB とする。 この「よう」に関しては,いかなる場合であっても先行する「の」を「である」に置き換えることができる。
(152)
猫はあたかも何事も起らなかったかのようにうそうそと橋の欄干を嗅いでいた。
( (IP-MAT (PP (NP (N 猫))
(P は))
(NP-SBJ *)
(IP-ADV (ADVP (ADV あたかも))
(NP-PRD (PP (CP-QUE (IP-SUB (PP (NP (N 何事))
(P も))
(NP-SBJ *)
(VB 起ら)
(NEG なかっ)
(AXD た))
(P か))
(P の))
(N よう))
(AX に))
(SCON *)
(PP (ADVP (ADV うそうそ))
(P と))
(PP (NP (PP (NP (N 橋))
(P の))
(N 欄干))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB 嗅い)
(P で)
(VB2 い)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 95_aozora_Terada-1929))
(153)
これは非常に強烈な経験であたかも自分は存在しないかのように感じます
( (IP-MAT (NP-SBJ *speaker*)
(IP-ADV (PP (NP;{ACHIEVEMENT1} (PRO これ))
(P は))
(NP-SBJ *)
(NP-PRD (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(ADVP (ADJN 非常)
(AX に))
(ADJN 強烈)
(AX な))
(N 経験))
(AX で))
(CONJ *)
(NP-OB1;{ACHIEVEMENT1} *pro*)
(IP-SMC (ADVP (ADV あたかも))
(NP-PRD (PP (CP-QUE (IP-SUB (PP (NP (PRO 自分))
(P は))
(NP-SBJ *)
(VB 存在)
(VB0 し)
(NEG ない))
(P か))
(P の))
(N よう))
(AX に))
(VB 感じ)
(AX ます))
(ID 54_translated_TED_3-MihalyCsikszentmihalyi_2004))
以上は,実際のところ,形式名詞に関し, 「の」を「である」または「をする」に置き換えるというテストによって,IP-EMB 分析と PP 分析とを振り分けることが可能であると提案するものである (フローチャートがあればなおよい。 tikz があれば一番楽に作れるが)。
ナ形容詞(または「形容動詞」,ADJN)は通常,コピュラ「だ,な,に,の,で,と,たる,なる」等を伴って使用される(例えば,しずかだ/な,りこうだ/な)。それによって述語が構成され,主語と共起する場合には IP を投射する。これらの表現が述語的性質をもつということに曖昧性の余地は無く,またこれらを節として分析することを指示する統語論的事実が多数存在する。「に,の,で,と」をコピュラの語形として認めることによって,それらと同型の助詞の記述が簡単になり,またそれらが使用される文の意味が明確になる。これ以上の議論については,9.4.6 節を参照。ナ形容詞が単独の品詞と認められるのは主として,(1) コピュラ連体形としての特別な形式として「な」をもつこと (2) 名詞句による修飾を拒むこと,および (3) 「か」や補文化要素「と」「という」「といった」等以外の助詞が直接付加されることがないことによる。伝統文法で「たる-活用形容動詞」と呼ばれてきた形式は ADJN に含まれる(例:,鬱々たる/と,閑散たる/と,決然たる/と,騒然たる/と,漠然たる/と,呆然と,満々たる/と,黙々たる/と,隆々たる/と)。また,通常のナ形容詞が存在すると同時に,まったく同じ語幹に対して「な」の代りに「の」が後接された形式が存在することがある(例:不思議な/の,当たり前な/の,キレイ好きな/の,等)。これらもまた ADJN と分析される。「よう」「はず」「ふう」のように,通常の名詞と同様に修飾を受け,また格助詞をふかされるにもかかわらず,述語名詞句の主要部として「な」をもつ語が存在する。これらは N(名詞)として扱われる(9.4.6 節を参照)。一般に,名詞表現が「のだ構文」の述語となる時,コピュラは「な」形となる。
ADJN により構成された述語は,動詞やイ形容詞と同様に節を投射する。
(154)
いったん崩れたときに、パキンと折れるような状態にならないか心配だ。
( (IP-MAT (NP-SBJ *pro*)
(CP-QUE (IP-SUB (NP-SBJ *pro*)
(PP (NP (IP-EMB (ADVP (ADV いったん))
(VB 崩れ)
(AXD た))
(N とき))
(P に))
(PU 、)
(PP (NP (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(NP-PRD (IP-EMB (PP (NP (N パキン))
(P と))
(VB 折れる))
(N よう))
(AX な))
(N 状態))
(P に))
(VB なら)
(NEG ない))
(P か))
(ADJN 心配)
(AX だ)
(PU 。))
(ID 34_newswire_KAHOKU_00616_K201401010A0A106B00001))
(155)
太郎と花子では、どちらが歌が上手ですか。
( (CP-QUE (IP-SUB (PP (NP (PP (NP (CONJP (NP;{TARO_335} (NPR 太郎))
(P と))
(NP;{HANAKO_335} (NPR 花子)))
(P で)
(P は))
(PU 、)
(WPRO どちら))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(PP (NP (N 歌))
(P が))
(NP-OB1 *が*)
(ADJN 上手)
(AX です))
(P か)
(PU 。))
(ID 335_textbook_kisonihongo))
(156)
家庭が不安定だと子どもの状態は良くならない。
( (IP-MAT (PP (IP-ADV (PP (NP (N 家庭))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(ADJN 不安定)
(AX だ))
(P と))
(CND *)
(PP (NP (PP (NP (N 子ども))
(P の))
(N 状態))
(P は))
(NP-SBJ *)
(ADJI 良く)
(VB2 なら)
(NEG ない)
(PU 。))
(ID 39_newswire_KAHOKU_00616_K201401010A0A106B00001))
(141)
仙台は静かでとてもきれいでした。
( (IP-MAT (PP (NP (NPR 仙台))
(P は))
(NP-SBJ *)
(IP-ADV (ADJN 静か)
(AX で))
(CONJ *)
(ADVP (ADV とても))
(ADJN きれい)
(AX でし)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 9_misc_EXAMPLE))
(158)
またも不思議に思って彼を見つめた。
( (IP-MAT (NP-SBJ *speaker*)
(IP-ADV (PP (ADVP (ADV また))
(P も))
(IP-SMC (ADJN 不思議)
(AX に))
(VB 思っ)
(P て))
(CONJ *)
(PP (NP (PRO 彼))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB 見つめ)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 93_aozora_Hayashida-2015))
(159)
『可哀そうな男だ。
( (IP-MAT (-LRB- 『)
(NP-SBJ *hearer*)
(NP-PRD (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(ADJN 可哀そう)
(AX な))
(N 男))
(AX だ)
(PU 。))
(ID 156_aozora_Togawa-1937))
(160)
大衆が静かなことは日本人の特徴である。
( (IP-MAT (PP (NP (IP-EMB (PP (NP (N 大衆))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(ADJN 静か)
(AX な))
(N こと))
(P は))
(NP-SBJ *)
(NP-PRD (PP (NP (N 日本人))
(P の))
(N 特徴))
(AX で)
(VB2 ある)
(PU 。))
(ID 40_aozora_Hayashida-2015))
イ形容詞の場合と同じく,ナ形容詞に続くコピュラが連用形(「に」「と」)となり副詞的に使用される場合,これは ADVP を投射する。
(161)
カメラ付き携帯電話の普及などで、一般の人々が写真や映像を撮影し提供する機会が飛躍的に増えた。
( (IP-MAT (PP (NP (PP (NP (N カメラ付き携帯電話))
(P の))
(N 普及))
(P など)
(P で))
(PU 、)
(PP (NP (IP-EMB (PP (NP (PP (NP (N 一般))
(P の))
(N 人々))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(PP (NP (CONJP (NP (N 写真))
(P や))
(NP (N 映像)))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(IP-ADV (VB 撮影)
(VB0 し))
(CONJ *)
(VB 提供)
(VB0 する))
(N 機会))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(ADVP (ADJN 飛躍的)
(AX に))
(VB 増え)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 24_newswire_KAHOKU_00039_K201403130A0T10XX00001))
(162)
彼は公然と語っているのに、人々はこれに対して何も言わない。
( (IP-MAT (PP (IP-ADV (NP-OB1 *pro*)
(PP (NP (PRO 彼))
(P は))
(NP-SBJ *)
(ADVP (ADJN 公然)
(AX と))
(VB 語っ)
(P て)
(VB2 いる))
(P のに))
(SCON *)
(PU 、)
(PP (NP (N 人々))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (NP (PRO これ))
(P に対して))
(NP-OB1 (WPRO 何)
(P も))
(VB 言わ)
(NEG ない)
(PU 。))
(ID 559_bible_new))
「好きだ」「嫌いだ」「上手だ」のようなナ形容詞は「が」が付加された名詞句を2つもつが,そのうちの1つだけが主語役割をもつものとして分析される。2つめの「が」名詞句は NP-OB1 とラベル付けされる。
(163)
鈴木さんが一番英語が上手です。
( (IP-MAT (PP (NP (NPR 鈴木さん))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(ADVP (ADV 一番)
(FRAME (LU *25713*)))
(PP (NP (N 英語))
(P が))
(NP-OB1 *が*)
(ADJN 上手)
(AX です)
(PU 。))
(ID 493_textbook_purple_basic))
この種の形容詞を伴う文といわゆる二重主語文とは細心の注意を払って区別する必要がある。「が」が後接する名詞句の両方について,そのうち1つだけを取り出しても(文脈が与えられれば)述語と共に文として自立した意味をもち,述語に対する項としての役割を果たしている場合,それは述語の主語または NP-OB1 であり二重主語文ではない。
以下の例において「必要だ」は二項述語であり,「専用アプリのインストール」は第一目的語(NP-OB1)である。しかし,「簡単(だ)」は二重主語文を作る述語である。
(164)
スマホやタブレット端末は専用アプリのインストールが必要だが、操作は簡単。
( (IP-MAT (PP (NP (CONJP (NP (N スマホ))
(P や))
(NP (N タブレット端末)))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (IP-ADV (PP (NP (PP (NP (N 専用アプリ))
(P の))
(N インストール))
(P が))
(NP-SBJ2 *が*)
(ADJN 必要)
(AX だ))
(P が))
(CONJ *)
(PU 、)
(PP (NP (N 操作))
(P は))
(NP-SBJ2 *)
(ADJN 簡単)
(PU 。))
(ID 74_newswire_KAHOKU_00097_K201402230A0T20XX00001))
接尾辞「がち」は動詞の語幹に対して付加され,ADJN の場合と同じようにコピュラが後接して用いられる。
また,形態としてはナ形容詞に類似しているが,名詞修飾の位置にしか出現しないために,伝統文法で「連体詞」として分類されている「大きな」「小さな」「可笑しな」のような語がある。これらは単独の用法では PNL とラベル付けされる。ただし,節を投射すると考えられる場合もあり,項を伴ったり,(きわめてまれなことだが)修飾を受ける場合には,修飾先との個々の関係によって,PNLP, IP-REL もしくは IP-EMB の下で ADJN を主要部とする通常の構文として分析される(12 節を参照)。
(165)
自分でも驚くほど大きな声が出ました。
( (IP-MAT (PP (NP (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(PP (IP-ADV (NP-SBJ *speaker*)
(PP (NP (PRO 自分))
(P で)
(P も))
(VB 驚く))
(P ほど))
(ADJN 大きな)
(AX *))
(N 声))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(VB 出)
(AX まし)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 104_newswire_KAHOKU_00034_K201404110A0T30XX00001))
(166)
そして、それよりもなお大きなわざを、お示しになるであろう。
( (IP-MAT (NP-SBJ *pro*)
(CONJ そして)
(PU 、)
(PP (NP (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(PP (NP (PRO それ))
(P よりも))
(ADVP (ADV なお))
(ADJN 大きな)
(AX *))
(N わざ))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(PU 、)
(VB お示し)
(P に)
(VB2 なる)
(MD であろう)
(PU 。))
(ID 347_bible_new))
述語名詞句は N, Q, WPRO 等を主要部とし,NP-PRD とラベル付けされる。述語名詞句はコピュラと結合し,(1) 主語名詞句の属性の記述,(2) 主語名詞句との同一関係の叙述,あるいは (3)属性を記述する名詞に対する値の付与,のいずれかを行う。
NP-PRD により構成された述語は,他の種類の述語と同様に,主語と共起して節を投射する。
(167)
暗黒エネルギーの正体を探ることが現代宇宙論の最大のテーマです。
( (IP-MAT (PP (NP (IP-EMB (NP-SBJ *pro*)
(PP (NP (PP (NP (N 暗黒エネルギー))
(P の))
(N 正体))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB 探る))
(N こと))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(NP-PRD (PP (NP (N 現代宇宙論))
(P の))
(PP (NP (N 最大))
(P の))
(N テーマ))
(AX です)
(PU 。))
(ID 14_newswire_KAHOKU_11382_K201401010A0A30XX00006))
(168)
-審査委員長一押しの提案は何ですか。
( (CP-QUE (IP-SUB (SYM -)
(PP (NP (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(NP-PRD (N 審査委員長一押し))
(AX の))
(N 提案))
(P は))
(NP-SBJ *)
(NP-PRD (WPRO 何))
(AX です))
(P か)
(PU 。))
(ID 101_newswire_KAHOKU_00052_K201403260A0T10XX00001))
(169)
自分は虜だから、腰をかける訳に行かない。
( (IP-MAT (PP (NP (PRO 自分))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (IP-ADV (NP-PRD (N 虜))
(AX だ))
(P から))
(SCON *)
(PU 、)
(PP (NP (N 腰))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB かける)
(MD 訳に行かない)
(PU 。))
(ID 296_aozora_Natsume-1908))
(170)
藤原氏は小保内氏の側近で、昨年3月に退任。
( (IP-MAT (PP (NP;{PERSON} (NPR 藤原氏))
(P は))
(NP-SBJ *)
(IP-ADV (NP-PRD (PP (NP;{PERSON} (NPR 小保内氏))
(P の))
(N 側近))
(AX で))
(CONJ *)
(PU 、)
(PP (NP (N 昨年)
(NUMCLP (NUM 3)
(CL 月)))
(P に))
(VB 退任)
(PU 。))
(ID 127_newswire_KAHOKU_00028_K201401010A0F30XX00001))
(171)
その間が、たっぷり一時間はあった様に思われます。
( (IP-MAT (NP-SBJ *speaker*)
(PP (NP (D その)
(N 間))
(P が))
(NP-OB1 *が*)
(PU 、)
(IP-SMC (NP-PRD (IP-EMB (ADVP (ADV たっぷり))
(PP;*SBJ* (NP (NUMCLP (NUM 一)
(CL 時間)))
(P は))
(VB あっ)
(AXD た))
(N 様))
(AX に))
(VB 思わ)
(VB2 れ)
(AX ます)
(PU 。))
(ID 249_aozora_Edogawa-1929))
(172)
国際学術コンペの審査委員長で、フロリダ大西洋大教授のフランク・シュニッドマンさんに聞いた。
( (IP-MAT (NP-SBJ *speaker*)
(NP-OB1 *pro*)
(PP (NP;{PERSON} (IP-REL (NP-SBJ *T*)
(IP-ADV (NP-PRD (PP (NP (N 国際学術コンペ))
(P の))
(N 審査委員長))
(AX で))
(CONJ *)
(PU 、)
(NP-PRD (N フロリダ大西洋大教授))
(AX の))
(NPR フランク・シュニッドマンさん))
(P に))
(VB 聞い)
(AXD た)
(PU 。))
(ID 82_newswire_KAHOKU_00052_K201403260A0T10XX00001))
(173)
だとすると、彼が犯人である可能性は低い。
( (IP-MAT (CONJ だとすると)
(PU 、)
(PP (NP (IP-EMB (PP (NP;{TANAKA_175} (PRO 彼))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(NP-PRD (N 犯人))
(AX で)
(VB2 ある))
(N 可能性))
(P は))
(NP-SBJ *)
(ADJI 低い)
(PU 。))
(ID 176_textbook_kisonihongo))
(174)
「先生、この人が生れつき盲人なのは、だれが罪を犯したためですか。
( (CP-QUE (-LRB- 「)
(IP-SUB (NP-VOC (N 先生))
(PU 、)
(PP (NP (IP-EMB (PP (NP (D この)
(N 人))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(NP-ADV (N 生れつき))
(NP-PRD (N 盲人))
(AX な))
(N の))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PU 、)
(NP-PRD (IP-EMB (PP (NP (WPRO だれ))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(PP (NP (N 罪))
(P を))
(NP-OB1 *を*)
(VB 犯し)
(AXD た))
(N ため))
(AX です))
(P か)
(PU 。))
(ID 748_bible_new))
形式名詞「はず」「よう」「ふう」を含めて,名詞の中には名詞を修飾する場合,コピュラとして「な」を取ることができるものがある。一般に,名詞表現はすべて「のだ」構文の中の述語となる場合にコピュラとして「な」を取ることができる。様々な形式名詞を修飾する場合も同様である(下記の議論を参照のこと)。
「赤,グレー,ピンク,緑色,紫,大型,最高,多額,当面,別,本当」等の語を独立した品詞「ノ形容詞」として分類することがあるが,本コーパスでは従わない。これらの語が通常は属性記述に用いられるのは事実だが,その大部分は普通名詞と同様の属性を示す。さらに,単一のカテゴリーとして定義することは容易ではなく,そのため N として扱う。
「形式名詞+コピュラ」は次のような文法機能をもつ。主節の終末部に現れる場合,アスペクト,情報構造,モダリティ,伝聞等,様々な役割を果たす。この種の語のうち基本的なものには,「はず」(見込み),「わけ」(理由,結論),「もの」(仮定,習慣,不可避性),「こと」(義務),「よう」(直喩,推定)がある。この他に,多様な文脈で現れる以下の語を付け加えることができる:「つもり,気,魂胆」(意図),「ところ」(始動,完了,仮定),「ため」(理由,原因),「せい,おかげ」(原因),「ほう」(選択肢),「まま」(現状維持),「そう」(伝聞),等。これらの語のほとんどは名詞修飾節内部の主語表示における「が/の交換」を許さず(これらを含むコピュラ文自体が名詞を修飾する場合を除く),また属性を記述する述語の主語が「が」により表示される場合,総記(焦点)の読みを伴う。これらの語は本コーパスでは名詞として扱われる。
述語名詞句はとりたて助詞「だけ」「のみ」「ばかり」「ならでは」「ぐらい」「なんか」を伴うことがある。このような場合,PP の直後に曖昧性解消情報 (NP-PRD *) を置く。
(175)
私が持っているのは本だけです。
( (IP-MAT (PP (NP (IP-REL (NP-OB1 *T*)
(PP (NP (PRO 私))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(VB 持っ)
(P て)
(VB2 いる))
(N の))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PP (NP (N 本))
(P だけ))
(NP-PRD *)
(AX です)
(PU 。))
(ID 420_textbook_TANAKA))
焦点化のための疑似分裂文では,さまざまな助詞を伴う助詞句(PP)が述語名詞句と同じ位置に現れる。この場合は曖昧性解消情報を付与する必要はない(さらなる議論は 30.5 節を参照)。
(176)
「わたしたちが信じるのは、もうあなたが話してくれたからではない。
( (IP-MAT (-LRB- 「)
(PP (NP (IP-EMB (NP-OB1 *pro*)
(PP (NP (PRO わたしたち))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(VB 信じる))
(N の))
(P は))
(NP-SBJ *)
(PU 、)
(PP (IP-ADV (NP-OB1 *pro*)
(ADVP (ADV もう))
(PP (NP (PRO あなた))
(P が))
(NP-SBJ *が*)
(VB 話し)
(P て)
(VB2 くれ)
(AXD た))
(P から))
(AX で)
(P は)
(NEG ない)
(PU 。))
(ID 283_bible_new))
文法役割を示す助詞に「の」が続いて名詞を修飾している場合や,「と」が続いて述語を修飾している場合,これらの「の」や「と」をコピュラとして分析することができるかもしれない。なぜなら,これらは上記のような例におけるコピュラの連用形と同じ機能をもつと考えることができるからである。しかし,現行のアノテーションではこのような場合の「の」や「と」は助詞とラベル付けすることにする(詳細については,9.4.3 節を参照)。
倒置法(33.4 節)を除き,基本的に主節中の述語本体に後続する要素には3つの種類がある。
間接受動形態素および使役形態素は最初のグループに属すが,本アノテーションでは VB2 として分類される。「(ら)れる」の可能,自発,および尊敬用法についても同様である。「のだ」構文は述語本体または拡張形の終止形に接続し第2グループに属するが,個別に扱われる。第1および第2グループに属する残りの語は,AX,AXD,MD,PASS,あるいは NEG に分類される。コピュラの諸形式(です,な,の,で,だっ,だろ,に,なる,と,たる,等)は AX とラベル付けされるが,実際には述語本体の一部を構成する(「のだ」構文としての用法を除く)。詳細は 9.4.1 節を参照のこと。
助動詞的要素は,AX, AXD, MD, PASS, および NEG に分類される。これらの語の中には,連語によって構成される,複雑で固定したモーダル的意味を伴うものがある。動詞および動詞型活用の助動詞の非終止形に後接する形式は以下の通りである。
間接受動を表示する「(ら)れる」と使役を表示する「(さ)せる」には VB のカテゴリーが与えられるので注意が必要である(9.1.1 節を参照)。
カテゴリー MD に属する語のうち,終止・連体形に接続するものを以下に挙げる。
モーダル表現には様々な種類があり,ここに掲げたのはその一部にすぎない。 また,「そう」および「よう」は,それらがどのような形式に付加されるかによって異なる意味をもつことに注意が必要である。
動詞によっては,助動詞「た」が後続しても通常の過去テンスや完了アスペクトでなく,状態としての意味をもち,形容詞に近い役割を果たすことがある。 このような場合は VB に AX が後続するものとしてラベル付けする。 通常の過去/完了を表す「た」は AXD であることに注意。 以下に AX としての「た」を伴う例を挙げる:
Section 8 | Section 10 |